裸婦の目触れろ、白蝮踏め

安酒と薬にどっぷり漬かってラリりながら書いてるオナニー文章です

権利の行使2

「でさ、でさ!そのみっちゃんって子がまた頭悪くってさ~!!」

自殺を決めていたあたしが最後のお金の使い道に迷っていたら、お腹を空かせてボロボロになっている見知らぬ少女にすがり付かれて、どうにかこうにかファミレスに連れてきた。

食事を摂って元気を取り戻し始めた彼女、まあ喋る喋る。
そんでもって口が悪い。あたしもまあまあ口悪いけどここまでじゃないわ、ってくらい口が悪い。
こうしてみるとすごい整った顔をしてるんだけれど、言葉遣いが乱暴。もったいないな。

「ってかこれ全部奢ってくれるってまじ!?超金持ちじゃんヤバ!私一銭も持ってないかんね!?」

「奢るって言ってんじゃん......ちゃんと自分のお金だから大丈夫」

「なに?エンコーでもしてんの?」

「ぶっ......げほっごほっ......ちょっとあんた、失礼すぎない?それが人にもの奢ってもらってとる態度?それに、周りの人に聞こえたらなんて思われるか......」

「冗談だって~そんなムキになんないでよ、怖いなあもう」

「普通にバイトです!悪かったわねゴシップネタに乏しくて」

「ホントだよ。でもあの峰星学院の生徒さんなんてね~......こんな繁華街でこんな時間に出歩いて、大丈夫なの?公序良俗的に」

「大丈夫なわけないでしょ。だからあんたに捕まった」

「捕まっただなんて人聞き悪いなぁもう。浮いたお金の使い道になってあげてるっていうのに」

「そんなこと言うなら、奢らないからね」

「んもう、冗談じゃん!ほら、冷めちゃうよ。食べよ?」

「......うん。あたし4時にはここ出なきゃいけないから早く食べてね」

「まかせろ!わっはー、このグラタンマジでうまい!」

彼女は2つめの海鮮グラタンをはふはふ言いながら口に放り込んだ。
可愛い子は食べてるとこまで可愛い。
世の中の不公平を思い知らされた。
デザートのフレンチトーストを食べているとき、不意に彼女が口にした。


「役所でしょ」

「......えっ?」

「これから行くの。役所でしょ?これから自殺する人の顔してる」

「......」

「いいよ別に。止めないし。変な道徳持ち出して、自殺はよくないとか言うつもりもない。安心して」

「じゃあなんで......」

「うちの親もね、自殺したんだ。二人で。二人だけで。残されたあたしは身寄りもないから、施設に預けられた」

「それで?」

「最初のうちは親を恨んで、絶対生きてやるって思ってた。けど段々どうでもよくなってきてさ。高校入ってすぐ、施設抜け出してきちゃったんだ。で、今派遣のバイトしながら男の家とか転々としてる。施設も探す気ないみたい」

「......」

「でもあたし、死ぬ気はないんだよね、不思議と。あんな親と一緒になりたくないっていうか、やっぱ死ぬのは違うなって。ほら役所での手続きとかもさ、めんどくさいし」

「あたしに生きろって言いたいの?」

「だーかーら、そんなんじゃないって。ただ生きる気もないし死ぬ気もない、自分が分かんなくなってるだけ」

「......そう、ならあたしには関係ないね」

「そ、関係ない。ただの思い出話だよ」

「ふーん......さぁ、あたし、そろそろ行かなきゃ!あんたも道連れになりたくなきゃ、さっさと帰りな」

「ああっ、待って待って!これ急いで食べるから!」


そして16時ちょうど、あたしたちは店を出た。
あたしは役所へ向かい、彼女は適当に連絡のついた、新宿区にある男の家に泊まることにしたようだ。これで現実世界の人間と関わるのは最後だ。せいせいする。
あたしは財布から紙幣を出して彼女に手渡す。

「これ。交通費。こんだけあれば新宿までは余裕でしょ」

「うん、ありがと。今日は会えてよかった、ホントに助かったよ、桜庭美咲ちゃん」

「......え?なんであたしの名前......」

「もう、あたしの事覚えてないの?最悪~薄情だなあ」

「......ごめん、名前は?」

「広川乙葉。中学の頃の同級生だよ」


広川乙葉。中学の頃、やたらとあたしを慕ってついて回る女の子がいた。その子も顔が整っていて、側にいると劣等感を感じざるを得なかった。今の今まで気づかなかったのは、いや、気づかないふりをしていたのは、故意に記憶から葬り去ってしまっていたからだろう。だって彼女は、広川乙葉は......


「自殺したはずじゃあ......」

「そうだね、あたし施設から逃げ出してすぐ自殺した。すごいね、今って高校離れててもそういう連絡行くんだね。どこからそんな噂回ったんだろう」

「遺書に名前があったって、お葬式呼ばれたから......」

「役所か......すごいよねあいつら。名前からすぐ連絡先割っちゃうからなあ」

「てことは、幽霊、ってこと......?いやいやいや、そんな馬鹿なこと......」

「現にあるじゃん。今こうして目の前に現れてんだからさ」

「でも......」

「あー心配しないで。ちゃんと他の人にも見えてるから。その証拠に、さっき海鮮グラタン追加で注文できたでしょ?」

「まぁ......」

「なんであたしの遺書に美咲の名前があったか、聞いた?」

「いや、説明してくれてたのかもしれないけど、正直聞いてなかった......友達が自殺するなんて初めてだったから」

「ふーん、友達だと思ってくれてたんだ!照れるなぁ」

「説明してくれないの?」

「あたしね、美咲が自殺するの知ってたんだ。というか、なんとなく予感してた。一緒にいてもどこか上の空っぽくて、不思議な感じしてたから。あれは人生に飽きてる人間の顔だ」

「バレてたんだ......」

「凄いでしょ?あたしの観察眼。そんで、あたし聞いたことあったじゃない?『いつ頃死ぬの?』って。そしたらあんたは、『自然に寿命が来るまで』って答えた。よくもまあそんな嘘っぱち」

「あのときあんただって『あたしも移植や再建受けなくても生きれる範囲で長生きするよ』って言ってたじゃない。それだって嘘でしょ」

「まぁね。あたしもあのときもう施設抜け出して死ぬって決めてたから。同罪だね」

「それで?なんであたしの名前遺書に書いたの。それを聞いてない」

「......止めたかったから。美咲の自殺。あたしと一緒になってほしくなかった。死んでから評価されるなんて美咲には似合わないよ。ちゃんと生きて愛されてほしい」

「でももう飽きちゃったし、これ以上幸せになることももうないよ。それに、愛されるのは乙葉の方がお似合い。顔も声も可愛いし性格も......悪くはない」

「悪くはないってどういうことよ。......美咲は斜に構えすぎなのよ。だから人の言うことも素直に受け止められない。ま、あたしはそういうとこ含めて慕ってたんだけどね。大丈夫よ、またそういう人が現れるから」


“最後に神様、お願いです。”
“今自殺を考えてる桜庭美咲が本当に死にそうになったときは”


「別に受け止められない訳じゃないよ、ただ本当にあたしに生きてる価値がないだけで......」

「そういうとこだよ。あたしが価値あるっつってんだからあるの!たった数週間であんたの自殺願望に気づいた人間が言うことだよ?ほんっと人の言うこと素直に聞けないなあ」


“私を彼女の前に現れさせてください”


「でも、もうクラスメイトにお別れもしてきたし教科書も燃やしちゃった。もう後戻りできないよ」

「そんなん、やっぱ死ぬのやめましたでいいじゃん!そういう変なプライドがあんた自身を傷つけてんの!分かってる?」


“彼女は私の大事な友達です”
“彼女はどう思ってるか分からないけど”

“彼女には生きて、傷ついて、挫けて、それでも幸せになってほしい”
“私達の歳で幸せを語るのはまだ早いと思うから“


「そんなん、分かってるよ......分かってるけど、」

「一緒にいたときだってそう、美咲があたしに劣等感抱いてたの知ってんだからね!そんな必要ないのに!美咲はかわいい!あたしが保証する!」


“いつか美咲がこっちに来たときには、”
“幸せな話沢山持って来れるように”

“あたしの代わりに長生きして、沢山幸せになれるように”


「そんなことないよ、あたしなんて......」

「ほーら、また人の言うこと聞かない。あんたがあたしの事助けてくんなかったら、あたしはもっと早く死んでた」


“そう願って、私はこの世を去ります”

“いじめられてた私を救ってくれた、唯一の友達の幸せを願って”



『ちょっと可愛いからって図に乗りやがって!』

『どうせ男に媚ばっか売ってんだろ!』

『そんな、違うよ......』

『じゃあ日向先輩のことどう説明するわけ?日向先輩彼女いるんだよ?知ってて近づいたんだろ!日向先輩取ろうとして!』

『違っ、本当に知らなかったんだよ......』

『嘘つけ!』

『本当に知らないよ、そいつ』

『......は?あんたB組の桜庭?何の用?』

『そいつが日向先輩に彼女いること知らないの、本当だよ』

『なんでそんなこと分かんのよ』

『だって日向先輩に彼女なんかいないからだよ。ふふっ、日向先輩にアプローチしようとしつこく詰め寄って、彼女いるからって断られたんでしょ?つまり先輩に彼女いると思ってたのはあんたらだけ』

『嘘......だって先週日向先輩が女子と一緒に帰るとこ見たし、』

『あー、それ多分あたし。図書委員の新聞作らなきゃいけないのにすっかり期限過ぎちゃって、先生に怒られちゃって。委員で絵が得意なあたしが委員長の先輩に頼まれて3日くらい手伝った』

『なぁんだ~それなら日向先輩に話しかけても全然大丈夫だったってことじゃん!気遣って損した』

『まだ分かんないの?先輩は嘘ついてまであんたらを引き離したかったってこと。もうあんたたち、先輩に近づくのやめな。余計嫌われても知らないよ、まして広川さんにこんなことして。言っとくけど先輩、いじめとか大っ嫌いだからね』

『......行くわよ』

『大丈夫?あたし桜庭美咲。あなたは広川乙葉さんよね?』



「助けたなんて......覚えてないわ」

「ふふっ、美咲らしい。ところでもう4時20分だけど、行かなくていいの?」

「......やっぱりやめた!最期がこんな湿っぽい話だなんてなんか辛気臭いじゃない?ただ、あんたが止めたおかげとか思わないでよね」

「はいはい。で?これからどうするの?」

「うちに帰るわ。置き手紙まで残してノコノコ帰ってくるなんてって思われるかもしれないけど」

「誰もそんなこと思わない。喜ぶよ」

「喜ぶ......ねぇ、あたしなんかが戻ってきたところで嬉しくなんかなんないと思うけど」

「ほら!そういうとこ!」

「ふふっ、ねぇ、乙葉?」

「んー?なになに、愛の告白?」

「もー!茶化さないで!あたしあんたのこと、ちゃんと友達だと思ってるから。そりゃ劣等感感じたこともあるけど、人生に必要な存在だったと思う」

「......そ!ありがと。照れるなぁ」



冬が来たらしい。
早くなった日没から逃げ出すようにあたしは家に帰った。
私の行方不明に伴って仕事を休んでいた、母親のビンタが待ち受けていた。でもこの痛みが、どこか懐かしく、心地よく感じて涙が溢れた。
突然行方不明になったかと思ったら突然帰って来て泣き出す娘に戸惑った母親が、あたしのことを抱き締める。
10年ぶりの母の腕の中で、あたしは微笑む。

「......なんだ、人生つまんなくもないじゃん」