裸婦の目触れろ、白蝮踏め

安酒と薬にどっぷり漬かってラリりながら書いてるオナニー文章です

24歳画家、人生レベルじゃない悩み

べきっ。

11月の朝。
私の手元では、二本の細い絵筆が折れていた。
高校時代同じ学年だった友人が軽音楽部同士でバンドを組み、インディーズながらCDを出すことになった。そのジャケットを依頼され、美術部だった私がイラストを手掛けていたところだった。

「おはよ。何してんの」

背後から低い声がした。
同棲している彼氏、智樹の声だ。

「なんでもない。ご飯は?食べた?」

「まだ食べてない。一緒に食べよ」

「これちょっと描いてからリビング行くね。今なんか描けそうな気するから」

「そっか、わかった」

智樹が立ち去る。真後ろでドアが閉まった。
さて、自分がやったとはいえ折れた絵筆で何を描けというのだ。私は椅子に座ったまま、両肘を膝につけて息をついた。
あーめんどくさい。この世のすべてがめんどくさい。けれど私には絵しかない。ビジネスも礼儀も教わってこなかった私に勝負できることは、もう絵しか残っていないのだ。こんなことなら親友が看護の専門学校に行くと行った時一緒に行けばよかったかも。
描きかけで止まっているキャンパスに目を這わせ、はあっとまた息をつく。
立ち上がって無意味に絵画技法の本に目を通してみたり、好きな画家の画集を見てみたりするのだがまるでこの続きが描けない。描き始めた頃は確実に構成が決まって筆をとったはずなのに、下書きをしてみるとなんだか違うな、と思ってしまった。そしてそう思ってしまったが最後描くペースは遅くなり、ついには完全に手を止めてしまった。

「やばいな......」

バンドメンバーから依頼されているジャケット画のチェック日まであと1週間を切っている。
予定では今日には色を入れ始め、明日明後日にかけて色づけ、明々後日には細かい仕上げをして完成の予定だったのに。
何度見ても視界にはまだ下書き段階のキャンパスが入ってくるだけ、鬱陶しくてぶん投げたくなる。

あのとき、進路調査の紙を出すとき、看護の専門学校に行くと書いていたら今頃どうなっていただろう。一人前とはいかなくても、ちょっとナースの仕事にも慣れて患者さんに慕われて、忙しくも華々しい日々を送っていたのだろうか。
こんな引きこもりみたいな生活で、かといって休みもなく、旅行に出ることもできない。来る日も来る日もキャンパスと向き合って絵、絵、絵。
お金は足りているけれど、やっぱりそれだけ。そんな女でよく智樹は飽きずに付き合ってくれているな。
あーあ、もっと顔がかわいかったらモデルか女優になって、今度は私を描かせる側に回ってやるのに。
スツールの上からコンパクトの鏡を取って眺める。寝不足を象徴する額のニキビ。ちょっと上目遣いで、頬をぷっと膨らませてみる。あーあ、やっぱりかわいくない。
鏡が私を嘲るように、光を反射してピカッと光った。

「かわいいよ」

突然背後から降りかかる声。
振り返ると、智樹が心底面白いものをみたというような表情で私を見つめていた。

「かわいくない。私は不満」

慌てているのを隠しながら、心持ち丁寧にコンパクトを閉じてスツールに戻す。

「味噌汁煮詰まっちゃうからおいでって言おうとしてきたんだけど......したくなっちゃった」

「ええ!?今ので?なんで?」

「分かんない、でも、好き。ヤらせて」

「待って私今......んっ」

唇で唇を塞がれてベッドへ移され、絵が描きたいなんて言う暇もなく脱がされてしまった。まあもともと言うつもりもなかったのかもしれない。
人間なのだから当然絵を描いているよりセックスしている時間の方が好きだ。
智樹に身を委ね、されるがままに愛される。
私の秘部をまさぐる指に耐え兼ねて腰が引ける。
喉元を掘る陰茎を唾液で滑らせて受け入れる。

「あーヤバい、もう入れていい?」

「ん、いいよ、来て?」

智樹がベッドの頭の引き出しからゴムを取り出して装着するのを唾を飲み込みながら待ち、ようやく私の膣内に硬い陰茎が割って入る。
ほぼ同時に、膣の奥に走る衝撃。普段優しく順序だててことを進める智樹が、今日は挿入してすぐに最奥を突いてきた。それを理解するのに一呼吸の時間が必要だったのだが、それを待たずに2発目、3発目と突いてくる。

「ひゃんっ!」

「かわいい、かわいいかわいい!ぐっちゃぐちゃに犯したい、好き、好き!」

「わかった、分かったからぁ......!やだ、やだっ!」

「何が?......はっ、何がやだ?教えてくれなきゃ分かんない......はぁっ」

「んゃぁぁ!奥っ、奥抉らないでっ!ひぅっ!あっあっあっ!」

「......嫌だね、こんなかわいいとこ見せつけられてやめろなんて無理」

「あんっ、はぁっ!」


肌と肌が触れる音と粘ついた液体音、喘ぎ声だけが部屋に響き、私が何度目かの絶頂を迎えるとその締まりで智樹も果てた。

事後、ゴムを処理する智樹の背中に私は抱きついて囁く。

「今日、ちょっと乱暴だった」

「......ごめん、好きすぎてつい」

「許さない......気持ちよかったけど」

「じゃあいいじゃん!......って、あー!味噌汁!」

「あー......出汁入れて薄めたら大丈夫だよ、多分......」

「辛い、絶対辛いわー」


二人とも裸に布一枚羽織ったような薄着でリビングへ移る。鍋にはすっかり煮詰まって、かさが半分ほどになった味噌汁がまだぐらぐらと煮えていた。
煮詰まった味噌汁に、防衛反射的にまた唾液が出る。
鍋に水を注ぎ、だしの素を入れる。若干薄くなりすぎた気がしたので、また味噌を足した。
うん、元の味とはいかないまでも、かなりマシになった。
私はキッチンに立ったまま、流すように言う。

「私、画家やめようと思うんだ~」

「うん、いいと思う。俺もそっちの方が嬉しい。画家やめたあとは何になるの?」

「うーん、まだ考えてないや。強いて言うなら、看護師?」

「画家とは真逆の職業だね。まあ手先器用だし、注射とか上手そう」

「なにそれ~」

そんな適当な褒め言葉が嬉しかった。
そんな適当な褒め言葉が欲しかった。
私は昼から智樹と一緒に買い物に行き、壊した絵筆を補修するためのテープを買った。意地で壊れたまま使ってもよかったんだけど、高校時代の同級生による新たな門出を祝うには、壊れた絵筆を使うのは失礼だと思った。だからって、最後の仕事のためだけに新たに筆を買うのは気が引けた。

帰宅して、テープを貼った愛着のある筆を握りしめる。
姿勢を正し、息を吸い込む。
今なら何か描けそうな気がしていた。