裸婦の目触れろ、白蝮踏め

安酒と薬にどっぷり漬かってラリりながら書いてるオナニー文章です

新宿、アルタ前

「君と付き合ってる間も女遊びがやめられなかった」

精神科、閉鎖病棟のロビー。
看護師が見守る中、電話口で彼ははっきりそう言った。
本当にやりたいことができたとかなんとかお飾りのような言い訳をしていたが、私にはそれしか覚えられなかった。
通院治療のカウンセリング中、突然送られてきた「別れよう」のメッセージ。傷心の中決まった入院。最後に通話をして話をつけようということになった。

海外に移住したいと思っていて、それにあたって僕の病気が足を引っ張ると思った。そのときに悲しませるくらいなら今別れた方がいいと思った。
自分が悪いのは分かってるけど謝って済むとも思えない。
「悪者になれよ、なんで別れる間際の最後の一回くらいそれができないの?なんでこの期に及んで保身に走るの?自分のことを愛してくれた人を裏切って捨てて傷つけて、それがまかり通ると思ってるだけの正当な理由を教えてくれよ」
ごめん、としか言われなかった。
「もう会いたくもないし連絡もとりたくないって思ってるでしょ?」
「うん」
「知ってる、そういう性格なのも最初から知ってた」
「別れたくないと思ってる?」
「いや……もうなんとも思ってないな。もしかしたら僕案外メンタル強かったのかもしれないね」
「いや、強いと思うよ、マジで。」
「マジでもっと落ち込むと思ってたわ。慶応行ったし次東大かな、相手」
「やー、本当にいけると思うよ。他に絶対いい人いると思う」
「お前が言うなや。図に乗るなよ。
まあ、正当な理由だとは思うよ。受け入れられるかどうかは別としてね。要は浮気と一緒じゃん、本当に好きなこと、やりたいことが見つかったから僕のこと好きじゃなくなった、それだけでしょ?」
「いや違う、好きじゃなくなった訳じゃないよ」
「ああ、好きじゃなくなったって言い方より恋愛感情がなくなったって言うのが正しいか」
「なくなってはない、まだ好きだけど……何て言うかな……」
僕に非はないし嫌いになったわけではないけど、ただ「付き合う」という関係に身を置く限りは結婚を前提にしたいと考えていた。
だから仕事や夢に向かって頑張りたくて結婚願望や恋愛への展望自体が薄れてしまった今交際を続けるのは失礼だと思った。お互いのために、別れた方がいいと思った。

「その、‘別れた方がいい’ってさっきから言ってるやつ、やめてくれない?‘別れたい’んでしょ?それくらいちゃんと言えよ。悪者になれって言ってんだろうが」
「ごめん、別れたい」
「……うん、分かった。言いたいことは概ねわかったよ。言っとくけど、僕が聞き分けいいだけだからね。僕が優しすぎるだけだから」
「分かってる、すごいいい子だと思ってる。この半年、出会ってからの一年、ここまで合う人他にいないって思ってたし、本当に成長できたよ」
「僕も、今は応援したいと思ってる。別れたからって不幸になれとか死ねとか思えないし。仮初めにも、幸せな時間をくれた大事な人だから。ちゃんと決別したいと思ってるよ、できそうでよかった」
「ありがとう、君も頑張ってね」
「うん」

不思議と涙は出なかった。
話を聞いているうちに、こんなやつに大切な処女を捧げた自分を殺したくなった。
椎名林檎が好きだって言うから私も聴くようになったのに。京都水族館のソファーで人目も憚らずイチャついたのに。丹波口のレンタルスペースで一緒にオムライス作って「幸せだね」って言い合ったのに。一緒にピューロランド行ってカチューシャ着けてプリクラ撮ったのに。河川敷で花火やって、線香花火どっちが長く生き残るか競ってたのに。入院中僕がシャーペンへし折ったツイート見ててくれて、クロスのいいシャーペン贈ってくれたのに。僕が渡したJo Maloneのバスオイルは、勿体ないからって部屋に飾っててくれてたのに。全部、全部嘘だったのか。痛かったけど、ゴムありでだけど中出しさせてやったのに。良い大学とか気にせずに君のこと好きだったのに。その為に裏切った人もいたのに。全部無駄になったのか。
応援していると言いつつ、純粋な気持ちで彼を支持することはまだできなかった。

「じゃあ……またどっかで会えたら」
「私も中国行きたいと思ってるし。上海で集合ね」
「うん、じゃあね」

今まで彼のことは年齢差的にも教養的にも手の届かない大人だと思っていた。でも違った。僕よりずっとガキだった。女遊びを浮気じゃないとかはっきり言っちゃうし、あとで恥ずかしくならないか本気で心配。気づくのは何年先になるんだろう。
これまでこの人と、こんなこと言う人との7時間の通話をあんなに有り難がっていたのに、この日は30分で気まずくなった。競りもしなかったし、揉めもしなかった。なによりこの期に及んで‘まだ好きだけど申し訳ないから~’だとか、無様な保身に走るところとか、責任を半分押し付けて円満に終わろうとしてくるところとか、汚すぎて本当に泣けてくる。

でもこの人を恨んだら負けだと思う。
幸せな日々に罪はないし、残った思い出も「それはそれ」で取っておけるのがスマートなやり方だと思う。そう思えるだけ成長した。
本当に好きだった。別れるまでの一年は本当に充実してた。それを認めてあげないと、この一年の自分も否定することになる。

じゃあね、16歳を共にした彼。
幸せになってね。