裸婦の目触れろ、白蝮踏め

安酒と薬にどっぷり漬かってラリりながら書いてるオナニー文章です

ふたりはコスプレイヤー

「ああっ、下糸なくなったぁ!ったく、あともうちょいなのにタイミング悪っ!」

ボビンケースから空になったボビンを出して、ミシンの上部から起こした棒にセットする。上糸を針穴から抜き、ボビンに引っ掻けた。
下糸を巻き終え、ボビンと上糸を切り離す。そしてまた元通りに上糸を針穴に通し、ボビンをボビンケースにしまった。下糸を出してミシンの準備が整ったとき、部屋の扉からノックの音が聞こえた。

「夏樹~、入るわよ」

「ちょっと待って!!」

私は慌ててミシンを棚にしまい布をかけた。糸や布切れが残っていないことを確認して、扉を開けて顔を出す。

「……なに?」

「あんた、勉強してたんでしょうね?ダメよ、もうすぐテストなんだから気抜いてちゃ。ほらこれ、お夜食。食べ終わったらちゃんとお皿一階に持って降りてきてよ」

「ありがと。おやすみ」

バタン……

「ふー……あっぶな」

私は母のおにぎりを一口頬張り、扉に凭れたままずるずると腰を落ち着けた。
カチッ、と時計が0分を指す音がした。体感的にきっと夜の10時だ。

「さーてと、続き続き」

ミシンを再び棚から取り出し、コンセントを挿す。上下の糸の間に布を通し、ペダルを踏んだ。

「あっやべ、名刺も印刷してない……しとこ」

プリンタに繋いだままのPCのもとに移動し、軽く操作する。開いたウインドウには名刺比率の私の写真……に、ハンドルネームとTwitterのIDを載せたものが写っている。

そう、私は大規模なコスイベを明日に控えたコスプレイヤーなのだ。
そして今は、すっかり溜め込んだ衣装作りに追われている。
コスプレをしていることは親には言ってない。言ったらきっと「危ない」とか「オタクっぽい」とかうるさく止めてくるから。さっきミシンを隠したのも母親を部屋に入れずに顔だけ出したのもそのためだ。

「うーん、ここの端処理やってたら絶対12時までに間に合わないな。両面テープにアイロンするか……ああもう、端処理全部これでいいや」

なんとかかんとか衣装作りを終わらせて、最後にリボンをカチューシャに付ければ完成。時刻は23時48分。完璧だ。
手についたGボンドを流すついでに流しに夜食の皿を持っていくと、母親はもう眠っていた。
目覚ましを6時にセットして、ベッドに入る。明日は7時半に家を出て9時には会場の更衣室に並びたい。寝坊しませんように!!そう願いながら深い眠りに落ちていった。

翌朝。むしろ目覚ましが鳴るより先に目を覚ました私は、台所のロールパンとアンパンマンのクラッカーが入ったコーンスープを食べて荷物の最終チェック。
衣装よし、靴よし、ウィッグとウィッグネットよし、化粧品よし、小道具よし、名刺もよし。母親を起こさないようにそっと家を出た。

電車を乗り継ぎ、会場へたどり着く。
会場はもう超満員で、更衣室への列もすでに長く伸びていた。
くそう。もうちょっと早く来ればよかった。テントにブルーシートを張っただけの簡易的な更衣室に入るまでに2時間かかり、着替えて出てこれたのは12時。撮影に対応するのはごはんを食べてからにしよう……

そう思ってホールの壁際に寄り、コンビニのパンを開けた。メープルのいい香りがその瞬間鼻腔をくすぐる。もうすでにおいしい。
そのとき、不意に1頭身上から声をかけられた。

「あのぅ、そのコス、魔法戦士ルド&リーチェのルドですよね?自分リーチェなんで、よかったら一緒に写真撮って貰えませんか?」

顔を上げるとそこにはリーチェの銀髪がよく似合う整った顔の美人が立っていた。ついぼんやり引き込まれてしまうような青い瞳。くっきりした目鼻立ち。すごい、リーチェが3次元にいる……!!

「……あっ、ごめんなさいつい見とれちゃって……!!いま急いでパン食べちゃいますね!!すみません!!!」

「ああ、全然急がなくていいですよ!!パン食べてる幸せそうな顔がルドにそっくりだったからつい話しかけちゃったんです!どうぞゆっくり召し上がってください!!」

「すみませんー!!」

急いでメープルくるみパンを頬袋に押し込み、コンビニのレジ袋にゴミをしまった。
スマートフォンの内カメラをビューティーモードにセットした彼女がワクワクした面持ちでこちらを見ている。

「はい!食べ終わりました!!写真でいいんですよね!名刺とかは……」

「あ、いいんですか!?ぜひ頂きたいですー!!」

私はミニアルバムから名刺を取り出し、彼女へ手渡した。

「あっ、このキャラもルドリーのネロだ!かっわいい~!!」

「ありがとうございます!!キキさんっていうんですね、キキさんのこっちは……」

「あ、一応男装です!中性キャラですけど、ハイドラってアニメのロイくんです!マイナージャンルですけどね……」

「ごめんなさい知らなくて……でもすっごいかっこいいです!!」

「ありがとうございます!さ、写真撮りましょ!」

3枚分シャッターを切り、TwitterをフォローしてDMでやりとりしようということになったとき、1人のカメラマンが私たちに話しかけてきた。

「あのー、撮らせてもらっていいですか?よければ2人で」

「あっはーい!」

そのカメラマン相手にふたりでポーズを決めていると、その後ろに、そのまた後ろにとカメラマンの列ができていく。
それが面白くなってきて、結局イベント終了間際のアナウンスが流れるまで一緒に写真に写っていた。


「はぁ、お疲れ様です!めっちゃ撮られましたね~、私こんなに列が途切れなかったの初めてです」

「自分も初めてです~!やっぱ2人の力ってすごいですね!じゃあ自分こっちなんで!あとでDM送りますね~今日はありがとうございました!」

「えっ」

そういって彼女は男性更衣室へ入っていった。